指示がないと動けない

 

指示依存が生まれる仕組み

人が主体的に動くためには、 何をするかを自分で決める余地 決めたことを実行できる環境 の両方が必要です。
一方が欠けても、もう一方だけでは主体性は育ちません。

「指示がないと動けない」という状態は、この二つが構造的に弱まっているサインです。
その背景には次のような要素があります。

1. 判断の余地がない

細かく指示を与えられる環境では、判断する機会が減ります。
最初は効率的に感じても、やがて「次に何をするか」を c が失われます。この状態が続けば、指示が途切れた途端に 動きが止まるのは自然なこと です。
意欲の有無ではなく、判断の機会そのものが欠落しているのです。

2. 判断が否定される経験

自分で決めて動いたときに、否定や修正が繰り返されると、自信は削がれます。 「言われるまで待ったほうが安全だ」 という構造が静かに形成されます。
この構造は、 正解の模倣 は増やしますが、主体性を育てることはありません。

3. 補われ続ける関係

動かない分を関わる側が肩代わりすれば、その場は回ります。
しかしそれは 動かなくても誰かがやる という前提を定着させます。
短期的には安心感をもたらしますが、 長期的には依存を固定化 します。

主体性を取り戻す構造調整

主体性は命令で生まれるものではなく、 環境と関係の中で育まれます 。そのためには 「余地」 「環境」 の両方を整える必要があります。
以下の三つの視点は、そのための入り口になります。

1. 小さな余地をつくる

すべてを指示せず、相手が自分で決められる部分を残します。たとえば 目的やゴールだけを共有 し、 手段や順序は任せる 。この余地は小さくても構いません。
繰り返すことで 考えて選ぶ 感覚が積み重なります。

2. 判断を肯定的に受け止める

相手の選択が自分の想定と異なっても、 すぐに修正せず一度結果を見ます
成功も失敗も経験として蓄積されることで、自分で判断することへの自信が育ちます。
正解を急いで与えること は、学びのプロセスごと奪うことになります。

3. 境界を引き直す

関わる側が全ての始動役 になっている場合は、その役割を見直します。
相手が自分で始め、続け、終える流れを持てる位置に移ることが必要です。
この境界の変化は、相手の主体性を促すだけでなく、 関わる側にも任せる力 を育てます。

関わる側の姿勢

構造を整えるには、関わる側の姿勢の変化が欠かせません。
任せた後に生まれる空白を恐れず、結果が望む形でなくても経験として受け止めること。

主体性は短期間では定着しません。環境が変わり、余地が生まれ、自分で考える経験が積み重なって初めて根づきます。その過程では 待つ力 も求められます。待つことは、 相手の責任を奪わず 、変化を相手自身のものにするための 重要な関わり です。

日常への落とし込み

指示依存から抜け出すために、日常で試せる視点は次の通りです。

・ゴールを示し、手段は相手に任せる
・選択の結果を観察し、必要な時だけ助言する
・任せた範囲を簡単に取り戻さない

これらは小さな変化ですが、続けることで行動の起点が外から内へと移ります。
動きはゆっくりでも、方向は確実に変わります。

 

違和感や停滞を感情で裁かず、構造として見直す視点があれば、 指示がないと動けない という関係は、互いに動き続けられる関係へと変わります。

 
 
Copyright © 2025 "コトノハコ" All Rights Reserved. Produce by GraftoneLAB