境界を越えて依存してくる

 
人と関わるとき、私たちは必ず何らかの境界を持っています。
それは線のように明確なものではなく、状況や関係性によって柔らかく形を変える領域です。
その境界は、互いが自分の責任で立ち、必要に応じて協力し合うための土台です。
境界があることで、相手の領域に入りすぎず、自分の領域も守られます。

しかし、時にその境界が薄くなり、一方がもう一方に強く依存する関係が生まれます。
依存といっても、必ずしも悪意や計算から起きるわけではありません。
困っているときに助けを求めることは自然な行為です。
問題は、その状態が一時的な支援にとどまらず、相手が自らの領域で解決すべきことまで継続的に委ねてしまうときです。

こうして境界を越える関係が固定化すると、依存される側は相手の課題を自分の課題のように背負い込み、日常の判断や行動が相手の反応に左右されます。
相手は相手で、自分の領域で考えたり決めたりする経験が減り、主体的に動く力を失っていきます。
お互いにとって「相手のため」という建前のもと、実は成長や自立を阻む構造が強化されてしまうのです。

この状況は、感情的な「甘え」や「怠け」といった個人の性質だけでは説明できません。
背景には、関係性の中で形成された境界の欠落した構造が存在します。
境界が曖昧なまま援助や助言を繰り返すと、双方が「これが普通」という認識を持ち、依存の回路はより強く結びついていきます。
 

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